子猫たちはしだいに私にも慣れるようになり、それぞれの性格もわかるようになってきた。

コレ「茶白」。好奇心旺盛で賢い。活発。警戒心少ない。きれいな毛並みと顔。オス。

左が「トラ」。のんびり、おっとりしている。毛がフワフワ。私のお気に入り。オス。

一番奥が母猫にそっくりの「そっくりさん」。片方の目が開いていなかった。なつかない。ちょっとぼんやりしている。オス。
手前左が「白黒」。唯一のメス。チビ。警戒心強い。全くなつかない。怖がり。一番速く逃げる。

晴れた日には、母が寝ていた和室の縁側の外で、猫一家が日向ぼっこをする姿が見られた。その様子は微笑ましく、私たちはとても和まされた。寒くなると、庭の物置の軒下のロッカーの上にダンボールを2個組み合わせて中に毛布を敷いてあげ、その中で6匹、重なりあって寝ていた。
パパらっちはどこかの家の飼い猫のくせに、毎日のようにやって来て子猫たちと遊んだり寝たりして過ごしていた。人懐っこく、大きな顔とカラダに似合わず子猫たちと一緒に「ミャー」と少し低い声でなき、ごはんまで食べて帰っていった。ちょっと図々しいが憎めないヤツだった。「こうやって見ていると、男親っていうのは人間も猫も同じようなもんだな。」と父。ふらっとやって来て、気が向いたときに子供と遊び、ゴハンだけ食べてまたどこかへ行ってしまうパパらっちの姿は自分を見ているようだったのか。

しかし、そんな猫一家の平和な日々はそう長くは続かなかった。

実家の南隣にはお寺がある。そのお寺と庭の境のブロック塀の上に、ある日大きな白い猫が現れた。カラダがとても大きく目が赤くちょっと不気味だった。塀の上から顔を出し、庭でくつろぐ猫一家をじっと見つめていた。

獲物を狙うような鋭い目つきでとても威圧感があった。まるで「ガンバの冒険」の「ノロイ」のようだった。毎日のように塀の向こうから見つめていたノロイだが、ある日、パパらっちがいないママさんと子猫たちだけの時に、塀を下りて近づいてきた。すぐに気がついたママさんは「フーーーー!」とすごい勢いで威嚇し、子猫たちは一斉に逃げた。しかしノロイはずんずん近づいてきた。私が慌てて追い払いに行こうとしたその時、どこからか猛烈な勢いでパパらっちがやって来た。いつもノロノロ歩いているパパらっちが見違える速さでノロイに飛び掛っていった。ノロイは慌てて塀の上に逃げたが、その上からパパらっちとにらみ合っていた。そして、取っ組み合いの喧嘩がはじまった。よく見るとノロイはパパらっちより大きく若く、動きも俊敏でカラダにキレがあった。いつも緩慢なパパらっちも一歩も引かなかった。あまりにも激しくすさまじいので、途中でたまらず仲裁に入ってノロイを追い払おうとしたが、パパらっちはなおも塀の向こうまで追いかけて行った。しばらくして帰ってきたパパらっちは顔からも脚からも血を流していた。よろよろとこちらにやって来ていつものように「ミャー」となき、子猫たちが集まってきた。すごいなーパパらっち、家族を守ったんだ。ちょっと見直した。

それから毎日のようにノロイの襲撃があった。塀の向こうからヌっと顔を出しこちらを凝視する姿は、猫好きな私でも怖気ずくほど野性的で怖かった。パパらっちとの死闘は毎日続き、いつも傷だらけで帰ってきた。一方のノロイは強くてしつこかった。私が「あっちへ行け」と追い払おうとしても動じなかった。パパらっちの傷はしだいに大きく深くなっていった。でも絶対に逃げなかった。どんなに具合が悪そうでも、ノロイの姿を見るとガラッと顔つきが変わり猛然と立ち向かっていった。「ギャーーーーー!」というすさまじい声と共に激しい戦いが繰り広げられていた。

どう見ても、パパらっちは年老いていて不利だった。でも野良猫の世界に口をはさむこともできず、ただ見ているしかなかった。「またあいつが来てる」と父に言うと、父は外に出て水をまいたりして追い払っていたが、それでも戦いは続いた。   ・・・・・・つづく

写真はパパらっち。よくみえないが右目は腫れていて、耳も大きく切れていた。