「エフ~、エフ~」
窓の外から呼ぶ声がする。
急いでエフがベランダから顔を出す。下を見て激しくシッポをふっている。
ハーレイおじさんだ!

ゴールデンのシンディを亡くしてから、一人寂しそうに緑道を歩いていたハーレイおじさん。
寂しくて寂しくてどうしようもないんです、と言って
エフに会うたび本当に愛おしそうに抱きしめていたハーレイおじさん。
最愛のシンディを亡くした悲しみはあまりにも大きくて、
いつも柔らかく優しい雰囲気でゆったりと歩いていたおじさんの後姿は、
バランスを欠いたように弱々しく変わってしまった。
見ていてつらかった。

あれから数ヶ月、
ハーレイおじさんがついに新しい家族を迎え入れたのだ。もさもさのワンコと一緒にいる。
里子に出されていたシープドッグ、1歳半位とか。
急いで里親になる必要があったようで、急遽迎えることに決めたそう。

名前を「ノーティ」という。その名の通り、なかなかのいたずらっこ。
おじさんに甘えるエフをシンディはそばでお座りしてやさしく見つめていたけれど、
ノーティは大きな顔でエフを押し出す。エフたじたじ。
「シンディとは全然違って、もうやんちゃでどうしようもなくて……。」とおじさん。
確かに、セラピー犬のように穏やかで優しかったシンディとはちょっと違う。
歩く速さもぴったり同じだった二人がのんびり散歩している姿が大好きだった。
ハアハアと鼻息荒くまだまだ落ち着きのないノーティ。
でも、そんなノーティに引っ張られ歩くおじさんは、明らかに元気になった。

そして、今日、もう一組。
いつも台車に乗ってゆっくりゆっくり散歩していた13歳のおじいさんわんこ
半年ほど前に亡くなってしまった。名前を「セナ」と言った。
歩けなくなってから随分長い期間を台車に乗って過ごしていた。
幸せそうにお母さんと二人毎日なにやら話しをしながら外の空気を楽しんでいた。

亡くなってから、やはりエフに会うたび、悲しそうにいとおしそうに何度も顔を撫でていた。
目に涙をいっぱいためて。

そして今日、黒ラブのチビすけを連れて歩いているセナのお母さんに遭遇した。
「セナがいなくなってから、淋しくて悲しくてなんにもやる気がおきなくて…。落ち込んで落ち込んで…、このままじゃダメだと思ってね。セナのことを思い出しちゃって余計つらくなるって思ったんだけどね、この子を迎えることにしたの。」と。
「でも、セナとはあまりにも違いすぎて、ちょっとまいっているの。」と、私に飛びつこうとする4ヶ月の黒ラブの「レン」をおさえながら言う。
台車に乗せたセナと穏やかに季節の移り変わりを感じながらゆっくりと散歩していたときとは違って、ジャージに軍手で一生懸命引っ張らないよう、拾い食いしないよう訓練しながら歩くセナのお母さんとレン。
無邪気にエフに突進してくるレン。
「エフちゃんごめんね、ガサツでイヤでしょ~。」と苦笑いするお母さん。
ほほえましかった。


先住犬があまりに偉大で家族との絆が強くて、
新しくやってきた犬たちは、やっぱり随分違うと比べられてしまう。
新入りくんの登場によって、余計亡くなった先住犬のすばらしさが際立ち、ガックリくることもあるだろう。

(私にとっての先住犬、ハッピー)


でも彼らのおかげで家族はみんな、明らかに元気になっている。
文句を言いながらも前を向いて歩いている。
そして、一生懸命家族の一員になろうと頑張っている新入りたちの姿を見ると、
「がんばれー!」と応援したくなる。

ノーティもレンも、シンディとセナとは全然違う。
あっちへいったりこっちへいったり足並み合わず怒られてばかり。
でも無邪気な君たちのおかげでどれだけ救われているか。

そうしてまた深い絆が生まれるのだろうね。
がんばれ、新入り!








そして我が家の深い絆。
おふたり揃って朝の一服中。